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地域の歴史を、自分のできる形で引き継いでいきたい 2022-03-22

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「京極庵」半田宗也さん インタビュー

港町の路地にひっそりと佇む「京極庵」。古くは『四国の玄関口』として賑わった丸亀の港町ですが、当時の名残りを感じる建物は少なくなり、今では数えるほどとなりました。
そんな歴史ある建物の1つである京極庵。現在は茶室でお抹茶を頂きながら、お庭や丸亀の歴史に触れることができる施設となっています。
京極庵の運営・管理に携わる半田宗也さんにお話を伺いました。


仕事帰りに立ち寄った建物に魅せられ

とても立派なお宅ですね。築何年くらいの建物なんですか?

明治19年の建物なので、今年で136年になります。
ここは元々、江戸時代から続く京極家付きの商家だった前谷家のお屋敷でした。

なるほど。ここではどういったことができるんでしょうか?

奥にお茶室があって、そちらでお茶菓子とお茶を頂きながら、お庭を楽しんで頂くことができます。その他、前谷家が当時収集した美術品や、丸亀にゆかりのある方々の作品や歴史などを展示しています。私はここの案内人という感じで、お客様をお出迎えしていますね。

半田さんはどういった経緯で、京極庵と関わるようになったんですか?

私は、本業で設計の仕事をしているんですが、当時設計事務所がすぐ近くにあったんですよ。事務所と丸亀駅の間にちょうどこの京極庵があったので、外で仕事がある度にこの前の通りを通っていました。
気になっていたんですよね、ある時、仕事の帰りに立ち寄ってみました。それで、今私がやっているのと同じように、建物の説明や丸亀の歴史を教えてもらって素敵だなぁ~と、この建物のオーナーさんを訪ねたんです。そしたら、話が盛り上がって「いいところですよね、あそこで仕事ができたら」みたいなことをお話して、そしたら「だったら、維持管理してみる?」と。それで今に至ります。

すばらしい行動力ですね! では自ら志願したという

そうですね、今も設計のお仕事はしているので、ここの維持管理をしながら奥の部屋をお借りして、設計をしたり、お客様との打ち合わせをここでやることもあります。
一方で、京極庵のお客様が来られたら、こうやって接客をしてそれがいいバランスになってるなと思います。両方のお仕事の時間が、相互に良く影響し合ってると感じます。

それはステキですね。もしかすると理想的な働き方なのかなと感じました。本業とのバランスを取りつつ、地域にも自分の望む形で関われるというか半田さんの場合は、あくまで建物に惚れたのがきっかけで、結果として地域と関わってるという感じだとは思いますが。


維持が難しいからこそ大切にしたい「引き継ぐ」ということ

改めて、136年もこの状態をキープするって、とても大変なことのように思います。維持管理のことについて、お聞かせいただいてもいいですか?

維持管理に関しては、費用面で言うと赤ですよね。
例えば中庭は定期的に業者さんにメンテナンスに入ってもらっていますし、前庭の一本松は背が高いので、剪定となると足場を立てる必要があるんですね。そうするとそれだけで数十万かかってしまいます。
あとは雨漏りとかでしょうか。大雨の日や風が強い日に、吹き込んで雨漏りとかするんですよね。その度に職人さんに手を入れてもらってる状況です。
明治の建物が、今もこの状態で残っているというのは、造りがいいことは確かですが、だからと言って老朽しないわけではないので。歴史のある建物を残していくというのは、本当に大変なことだと思います。放っておいてもお金がかかるので、財力のある方が引き継いでいかないと、成り立たないなというのはひしひしと感じていますね。

なるほど。ここ数年で港町に残っていた古い建物が解体されていくのを傍目に見ていて、少し寂しい気持ちになっていましたが、残すということはそう簡単なことではないというかむしろハードルの高いことであると、改めて知らされた気分です。

そうですね。だから私たちでは、どうにもできないんですよね寂しいですけど、解体されていく建物を見て、じゃぁ自分がどうにかできるのか? と言われると私がどうこうできる話じゃないじゃないですか。祈るくらいしかできませんよね
なんでしょうね私個人としては、どうにかしてやろうと思うこと自体がちょっとおこがましいような気がして。自分のできることで、右から来たものを、いい状態で左に流していくことしかできないんじゃないでしょうかね。次の世代に引き継ぐ1つの歯車になるくらいしかできない気がします。
億万長者だったらね、買い占めて、絶対に誰にも触らせないぞ! ってできるかもしれませんが、それも億万長者でなくなったら、出来ないということになるので。結局は何かしらの形で「引き継ぐ」ということが大切かなとは思います。


京極庵と関わるようになって知った、古い建物のよさ

ところで、半田さんご自身、設計のお仕事に携わってる中で、個人的な好みとしては、こういった昔の建築物と新しく建築される現代的なものと、どちらがお好みですか?

実は、丸亀に来るまでというか、京極庵と関わるまではわりと新しい物好きでしたね(笑)ここと関わるようになってから、古いものっていいなって思うようになりました。

それはどういう理由からですか?

結局勝てないんですよね、新しいものって。もちろん見栄えは新しい建物の方がいいんですけど、今からこういう建物って造れないじゃないですか。だから、頑張れば頑張るほど設計する身としては「結局勝てないのか」って虚しくなってきますよね(笑)。
あとは「物に対する人の愛着」みたいなものも踏まえて「建築」と捉えだすと、ここも136年残ってると考えると、かなりのドラマがあったはずなんですよ。本当は壊されそうになったけれど、今所有者が変わってこうやって残っているとか、そういったことだけじゃなくて、例えば戦争も経験してるでしょうから、空襲にあって周りは焼けたけど、ここだけは残ったとか。きっと各建物にそれぞれ12つ、そういうドラマがあって、そういう奇跡の連続で残ってると思うんですよね。それを考えると「なんかいいな」って思いますよね。

なるほど、そんな数々の歴史を超えて、今も残る京極庵、さまざまなポイントがあると思いますが、半田さんが来られたお客様に特に見て欲しいという場所はどこですか?

1階奥の、お茶室として使用している和室ですかね。必ずお通しするので、見て頂けるのですが、本当に手間と時間をかけて造られたんだなぁと感じる場所ですね。
ひび1つ入ってないですし、天井も高いんですけど保存状態がめちゃくちゃいいと思います。その他にも、土壁には本物の金が練り込まれていたり、床板も赤松の一枚板だったりと贅と当時の職人さんの技が尽くされているなぁと感じます。

ありがとうございます。最後に、ここに関わる人として、今後どういう風に展開していきたいと思っていますか?

どういうふうにしたらいいと思いますか? 逆に聞きたいなと思って(笑)

難しいですね。試行錯誤中という感じでしょうか?

そうですね。いろいろ考えてはいますが、基本はここを目掛けて来てくださる人に、丁寧にここの良さを伝えていくということを先ほどの「引き継ぐ」という意味合いも含みで積み重ねていけたらとは思っています。

WEBサイト:https://www.kyougokuann.com/


これまで港町で働くたくさんの方のお話を伺ってきましたが、築136年の建物と日々向き合っている半田さんだからこそのリアルなお話が聞けました。右から来たものを、いい状態で左へという言葉が印象的で、「歴史あるものを守る」というと、つい背負ってしまいがちのような気もしますが、一旦自分を通過すると受け止めると、もっと軽やかにそれらと関わっていけるのかもしれないと感じました。ありがとうございます!